Wakrak株式会社は、日本最大級のデイワークアプリ『ワクラク』を開発・運営している注目のスタートアップ企業だ。デイワークとは、いわゆる〝1日単位の仕事〟を指す。かつてから、〝日雇い労働〟と呼ばれる働き方は存在していたが、同社が提案するデイワークは、その概念とは似て非なるものだ。副業やシェアリングエコノミーが一般化している今、「特定の場所や時間に縛られない自由な働き方」を実現するための手段として、若い世代を中心に、デイワークが身近でポジティブな選択肢となりつつある。事実、サービス開始からわずか1年半で、ユーザー登録数は4万人を突破。サービス拡充と組織強化に向け、2018年11月、同社は1億円の資金調達を発表した。創業者の谷口氏は、なんと若干19歳。期待の大きなスタートアップとして、事業に関する記事は既に多く存在するため、今回は若き挑戦者を突き動かす原動力となったエピソードをはじめ、彼自身の人物像にフォーカスした内容をお伝えしたい。

Wakrak株式会社 代表 谷口 怜央さん開始1年半でユーザー登録数4万人を突破!1日単位で働けるデイワークとは?

『ワクラク』は、働き手であるユーザーと、人手を必要とする事業者を、アプリひとつで即日マッチングさせるプラットフォームサービスです。特徴は、〝1日単位の仕事(デイワーク)〟に特化した求人であること。ユーザーは、アプリを無料でダウンロードするだけで、「仕事探し」も「雇用契約の締結」も、デジタルで完結できるようになります。従来のアルバイト契約に必要とされた履歴書の提出や面接など、手間のかかる手続きは一切不要。出勤当日、初めて現場へ行って働くだけです。さらに、給与の振込もアプリ上で申請でき、出勤日から最短翌日に指定口座へ振り込まれます。この即金性と、好きなときに単発で働ける手軽さが魅力となり、学生やフリーター、主婦をメインユーザーに、サービス開始から約1年半で登録者数が4万人に到達しました。

登録店舗数500店超!90%の驚異的なマッチング率で、人手不足を解決する。

現状の求人募集は、飲食店やホテル、コールセンター、物流、EC、IT企業がメインです。事業者側が『ワクラク』を導入するメリットは、1つは採用コストを大幅に削減できること。求人の掲載において、初期費用・月額費用ともに、ワクラクは一切いただきません。手数料が発生するのは、マッチングが成立して、ユーザーが実際に働いたときだけ。しかも手数料は、ユーザー1人に支払われる給与の10%のみです。弊社がいただく手数料は平均600~800円なので、飲食店の平均採用コストとされる3,000円(ワクラク調べ :1回働いてもらうための採用コスト)と比較しても、圧倒的なコストカットを実現できます。

そして、もう2つ目のメリットは、採用における即時性にあります。『ワクラク』のマッチング率は今や90%に達しており、求人を掲載して働き手が見つからないことは、ほぼありません。実際に、大手物流企業様が10日分の求人200名を募集したところ、掲載1時間で20名のマッチングが実現しました。その他、「明日の17時から4時間だけ人手が欲しい」など、従来のアルバイト募集では対応が困難だった緊急かつピンポイントの求人にも、アプリひとつで働き手が見つかるのがデイワークならではの強み。昨年末のマッチング数は月間1500回を超え、人手不足に悩む多くの企業様から喜びの声をいただいています。

ちなみに『ワクラク』登録ユーザーの1ヵ月あたりの利用回数は、平均4回に上ります。興味深いことに、同じ職場にリピートするケースが多いことも判明しました。これは、事業者と働き手が直接契約しないことで、お互いが適度な距離感で仕事をすることができ、結果的に長続きするのではないかと予想しています。

Wakrak株式会社 代表 谷口 怜央さん活発な野球少年から弱者への一転。初めて直面した〝社会の負〟

愛知県名古屋市の出身です。建築士の父、着付けを教えていた母のもとに生まれました。幼い頃の私は、小学1年生からクラブチームに所属する野球少年。しかし後半3年間は、進学校に通っていた兄に倣って中学受験を強いられ、大好きな野球ができない時期がありました。すごく辛くて、両親に激しく反発したのを覚えています。ようやく中学生になり、念願の野球生活が再開。入部当初から1番ショートのレギュラーを獲得し、大好きな野球ができる喜びに満ちていました。ところが2年生のとき、試合中に腰のけがを負ってしまいました。ある日突然、野球どころか生活もままならない、車椅子生活になってしまったのです。このとき初めて、〝社会の負〟の側面を、身をもって経験します。車椅子に乗った私が転倒したとき、道行く人が誰も助けてくれなかったのです。困っているのに、見て見ぬふりをされた…。当時は歩けるようになる見通しも立たない不安に加え、このときの精神的ショックがあまりに大きく、約1年間は自宅に引きこもってしまいました。かろうじて登校はしていたものの、帰宅すると部屋のカーテンを閉め切り、ベッドに突っ伏して過ごす日々。何もやる気が起きず、絶望感でいっぱいでした。

偉人のドキュメンタリーを観て一念発起!社会に蔓延する〝見て見ぬふり〟をなくしたい。

Wakrak株式会社 代表 谷口 怜央さんそんなある日、目にした1本のドキュメンタリーが私の人生を変えます。それは、キューバ革命の指導者、チェ・ゲバラのストーリーでした。ゲバラは裕福な家柄の医者であり、アルゼンチン人でありながら、旅先で目撃した他国の人々の貧困や病気、圧政と不平等による苦しみに対し、「革命」という具体的な行動に出ました。もちろん、戦争や殺人には賛成できません。しかし、助けたい命のために、やむなく武器をとった彼の〝見て見ぬふりをしない〟生き様に、私は大きな衝撃を受けたのです。自分が車椅子で転んだときに直面した、無関心が蔓延する社会…。あのとき確かに憤りを感じたけれど、ふと自分に矢印を向けてみれば、多くの社会問題が存在することを知りながら、何ひとつ具体的な行動には移していない。自分も同様、見て見ぬふりをしてきた人間であることに、初めて気づいたのです。ゲバラのような生き方がしたい。この世に溢れる〝見て見ぬふり〟をなくしたい──!この日を境に一念発起して、リハビリを開始。精神的な影響が大きかったのか、ほどなく歩けるようになりました。

Wakrak株式会社 代表 谷口 怜央さんアフリカへの単独渡航と、セネガルで暮らす人々から学んだこと。

世の中の〝見て見ぬふり〟をなくすと決意したものの、貧困や社会問題の実態を知らない自分には、いったい何から始めるべきなのか見当もつきません。とにかく何かしたいという想いを胸に、高校1年生の夏、1ヵ月間のアフリカ生活を体験してきました。アフリカを選んだ理由は単純で、ゲバラに影響を受けたこと。そして、アフリカに行けばきっと、貧困や何らかの社会問題に辿りつくと考えたからです。滞在先は、ネットで知り合った日本人に紹介していただいたセネガル人のお家。ボランティアではなく、現地での生活を通して人々のリアルを知りたいという目的を伝え、ホームステイをさせてもらったのです。セネガルは、アフリカの危険地域に挟まれていながら比較的安全な国と云われ、日本と同じく「おもてなし」の国だと聞いていました。実際に生活してみて印象的だったのは、物質的には確かに貧しい国ではありながら、路上で生活する人々の表情にも、笑顔や余裕が感じられたこと。仕事もないしヒマだからといえばそうなのですが、困った人がいれば助け合うのが当たり前。彼らの間に〝無関心〟は存在しません。物質的には豊かなはずの日本人のほうが、よっぽど心に余裕がないように見えたのです。

ホームレスとの交流から導き出された、社会問題解決のヒント。

Wakrak株式会社 代表 谷口 怜央さん帰国した私が最初に始めたのは、ホームレスの人々と交流することでした。セネガルで経験した、初対面の相手と路上に座って語り合った時間や、助け合って生きていた人々の姿が、自分のなかに強烈な印象を残していました。もはや行動せずにはいられなかったのです。日本では、路上生活者に関心を持つ人は基本的にいないので、初めて彼らに話しかけたときには戸惑う人も多くいました。しかし、高校生の少年と毎日話すのが楽しみになったのでしょう。1年間を通して、約200人のホームレスの友達ができました。彼らの多くが、コミュニケーションが苦手なせいで社会に馴染めなかった結果、ホームレスになったと話します。しかし、一人ひとりと根気よく向き合えば、必ず分かり合えるものだし、足りない部分は助け合えばいい。ここでも私は、日本の社会の「余裕」のなさを痛烈に感じたのです。

自分のなかで、ひとつの仮説が生まれました。〝見て見ぬふり(無関心)〟が日本の社会に蔓延している理由は、他者に思いやりを持ったり、社会問題に目を向けたりする「余裕」を、多くの人が失っているからではないか。そして、日本人の余裕を奪っている最大の要因…。それは、多くの人が一日のなかで、最も時間を費やしている「仕事」や「働き方」の現状に、解決すべき課題があるのではないかということでした。

その後も日本全国のヒッチハイク、ITベンチャーでのインターンなど、社会問題の解決の糸口を模索しました。さまざまな出逢いや経験を通じて、最終的に行きついた答え。それは、世の中に本質的な変革を起こしたいのなら、継続性の高いビジネスを立ち上げ、仕組みで解決することが最も効果的だという結論でした。それまでは、NPOを立ち上げたり、ホームレスの社会復帰を支援したりと、自分なりに社会問題の解決に向け奮闘してきましたが、自ら動ける範囲の活動だけで社会を変革させることに、やや限界を感じていたのです。まさに、発想の転換でした。ボランティアや社会起業家として、解決すべき社会問題そのものに個人でアプローチするのではなく、〝見て見ぬふり〟が蔓延する日本社会の余裕のなさが、人々の「仕事」や「働き方」に起因すると考えるなら、〝余裕の持てる働き方〟ができる仕組みをビジネスとして創造し、世の中に提供しよう。その結果、社会全体が良い方向に進み、自然と諸問題も解決していくと考えたのです。

「デイワーク」という働き方の選択肢を提供し、日本人に余裕を持たせたい。

Wakrak株式会社 代表 谷口 怜央さんいつでも、どこでも、なんでも好きなことができる社会が実現すれば、人々の心に余裕が生まれ、社会全体が前向きになるはずです。しかし現実は、やりたくないことを嫌々続けている人が多いように感じます。やりたくないことを辞められない理由は、やはり生活があるから。やりたくないことを辞めたところで、すぐに次の仕事や生活費を確保する仕組みが存在しないことが、人々の可能性を狭めていると思うのです。デイワークは、そんな現状の働き方に革命を起こす選択肢になり得る。アップル社が「iPhone」や「Mac」を持った人々を通して世の中を創造的にしたように、『ワクラク』を通して人々の心に余裕を持たせ、人々の行動に変化をもたらしたい。〝見て見ぬふりをしない〟社会の実現に向けた第一歩に、必ずなると信じています。

谷口社長が描く、今後の展望。

弊社サービスの次なるフェーズとして、ユーザーデータの蓄積に注力しています。そのために最近、システムもアップデートしました。デイワーク終了後に、ユーザーと事業者との間で相互評価ができる仕組みを導入し、各ユーザーの蓄積された評価や適性に応じて、次回検索時に表示される求人も変わるようにしていきます。今後もマッチングと評価を重ねてデータが蓄積されれば、個人の得意・不得意を可視化できるようになります。そのデータを活用することで、採用側には最適な人材のアサイン、ユーザーには能力を活かせる求人とのマッチングを、スピーディーかつ高精度で提供できるようになるわけです。『ワクラク』上に自分の価値が蓄積されていれば、いつでも、どこでも、安心してやりたいことを選べる人生になる。今後は業種の幅を拡げ、誰もがもっと働くことを自由に選択し、創造的に生きられる社会を実現していきたいです。


◆ 編集後記 ◆

記念すべき2019年初の『ToBeマガジン』インタビューは、未成年のスタートアップ創業者の取材とのことで、貴重な機会に胸をふくらませ臨んだ。場所は、Wakrak株式会社がオフィスを構える南青山のシェアオフィス『LIFORK(リフォーク)』。倉庫を改装したようなインダストリアルな雰囲気が漂う、クリエイティブなオフィス空間だ。

さて、ラウンジに姿を現した谷口社長。端正な顔立ちに、スレンダーな体型。そして、驚いたのが素足にサンダル姿での登場だったこと!彼がモノを持たないミニマリストであることは事前に伺っていた。影響を受けた偉人にも、アップル創業者スティーブ・ジョブズの名があったので、「重要なこと以外の決断の数を減らすため、服装は毎日同じ」という、ジョブズのスタイルを取り入れていることまでは想像できた。取材前にいただいた情報の通り、1着しか持たないという黒無地ハイネックで現れた谷口社長。予想外だった素足の理由を聞いたところ、「ジョブズよりも劣っている僕は、気が散ってしまうことを防ぐため、重要でない決断の数を彼以上に減らす必要があった」という。つまり、靴下の脱ぎ履きまで、人生から削ぎ落してしまったのだ!なんともお茶目で極端な話だが、彼の事業への本気度が充分に伝わってくるエピソードだ。

「自分には、特別な技術もなければ営業力もない。あるのは明確なビジョンだけです。」そう話す彼は事実、たった一人17歳で起業した。いつしか掲げた夢や志に共鳴した応援者が集まり、描くチカラで着実に未来を手繰り寄せてきたのだ。ジョブズや孫正義のスピーチを、空で言えるほど聴き続けているという彼は、プレゼンスキルやビジョナリーな生き方を偉人から吸収し、成長し続けようとする姿勢にも余念がない。これから社会に大きなインパクトを与えるであろう谷口社長の大革命に、ぜひ期待したい。

取材:四分一 武 / 文:アラミホ

メールマガジン配信日: 2019年2月13日