今回訪問したplayground 株式会社は、今年の6/1に設立したばかり。「リアルイベントに、デジタル革命を」というビジョンのもと、LINE等のSNSで発券できる電子チケット発券サービス「Quick Ticket」を運営している。またこの電子チケットの発券を起点とし、来場者とのデジタルを介したコミュニケーションやデータ分析を通じて、興行品質や顧客満足度、収益性の向上に繋げる活動を支援するコンサルティング事業も行っている。「デジタル技術で100万人を熱狂させるリアルイベントを生み出したい」と語る、伊藤氏にお話をうかがった。

LINEやFacebookでチケットの発券ができる「Quick Ticket」

playground株式会社がリリースした電子チケットサービスQuick Ticketの特徴のひとつは、多くの人が使っているLINEやFacebookといったSNS上でチケットを発券できる点だ。他のサービスと違い、専用アプリをダウンロードする必要がない。Quick Ticketの登場で、利用者がチケットを発券する方法に、使い慣れたSNSのプラットフォームという選択肢が追加されることになった。入場時のもぎりは係員が首から提げた電子スタンプをスマホの画面にタッチする。紙のチケットと同時に処理できるため、運営側に混乱が生じることもない。

「電子チケット技術単体の提供は4年位前からやってました。イベントに行くだけなのに『専用アプリをダウンロードしてください』では人気興行以外では使えない、と思って本格参入は避けてました。昨年からLINEやFacebookのAPI公開があり『これなら来場者も興行主も喜んでくれる』と参入を決断しました。Quick Ticketならチケットの同伴者への受け渡しもLINEだけでできるので利便性が高く、また、いま問題になっているチケットの転売対策にもなります」と伊藤氏は説明する。この手軽さが受けてQuick Ticketはリリース間もないにも関わらず、すでに西武ライオンズやサンリオなど、様々なイベントで活用されている。

playground株式会社 代表取締役 伊藤 圭史さん米国で受けたモンテッソーリ教育がいまの自分を作った

今年で32歳の伊藤氏は、姫路生まれ。朝日新聞社で海外特派員として経済記者をしていた父は転勤族だったため、幼い頃は毎年のように転居していたという。「出身を聞かれたとき、引っ越しすぎてどこを言えばいいのか悩みます(笑) 12歳までの間にもっとも長く暮らした場所という定義によれば、米国のバージニア州になります。姫路で生まれて九州で育ち、3歳でボストンへ行きました。一度神奈川に住んだのち、小2~小6までバージニア州で過ごしました」

現在の伊藤氏の素地を作ったもの、それは今話題の藤井四段の集中力を育てたともいわれるモンテッソーリ教育だ。ボストンで両親が選んだ保育園がこの教育を採用していた。「モンテッソーリ教育では自主性を重んじます。例えばみんなで遠足に行くとき、『僕は絵本を作りたいので行かない』といったらOKになりました。今考えると常に『どうしたいのか』とよく聞かれていました。そのせいなのか生まれつきなのか、米国人の中でも自己主張が強い人間に育ちました(笑)」と伊藤氏は当時を振り返る。

経営と政策のサークル、智深館(ちしんかん)

小学校6年のときに帰国。学校がつまらなかった伊藤氏は、登校せず塾に通う日々を過ごした。中学、高校は学習院へ。塾では早稲田を薦められたが、キャンパスが米国のように広くて木が多いからという理由で学習院を選んだ。怪我でスポーツができなかった中学時代はプロ野球や釣りなど、いくつかの同好会の代表を務めた。文化祭では教室に巨大な水槽を設置し、仲間が釣ってきたブラックバスや鯉を投げ込んだ釣堀企画を実現。これが大人気で、行列ができて整理券を配るほどだったという。

高校時代はバレーボールに夢中になった。学習院大学に進学するつもりだったが、仲のよい友人達が一緒でないことを知り、3年生の11月に急遽受験することにした。将来はテレビ局や広告代理店で企画を作りたいと考えていた伊藤氏は、私立の社会学科で一番偏差値が高かった上智大学へ。そして大学1年生の頃、起業に興味を持ったという。「私は体育会を辞めて熱中できるものを探していたときにちょうどホリエモンが話題になったんです。ビジネスに詳しそうな先輩に相談したところ、当時立ち上がったばかりの智深館(ちしんかん)という学生団体で経営部門を立ち上げることになりました。そこでサントリー伊右衛門の大学生向けマーケティング活動や大学の売店の改善提案、衆議院の選挙期間には候補者と有権者を集めて公開討論会を開催するなど、いろんな企画に取り組んでいました」

playground株式会社 代表取締役 伊藤 圭史さん年表をつくることで、未来を読み解く

大学卒業後、3年で起業することを決意していた伊藤氏は、最初に大企業で体系的にビジネスを学びたいという考えで、IBMビジネスコンサルティングサービスに入社した。世界一成熟した会社をみてみたかったという伊藤氏。日本の大企業では一人前の仕事ができるようになるまでに10年と言われ、そんなに待っていられないと外資を選んだ。半年の研修後、1年間CRMのシステムコンサルタントとしてITの基礎を学んだ。プロジェクトリーダーとしての活躍が目に留まり、社内のエースチームである戦略コンサルチームに引き抜かれた。

伊藤氏は当時をこう振り返る。「エースチームなだけあって本当に優秀な人ばかりでした。先輩の資料を全部みせてもらい、必死で勉強しました。最初全然ついていけなかったんですが、先輩がねばり強く教えてくれたおかげで一気に認めてもらえるようになりました」。
そしてIBMビジネスコンサルティングサービスを3年半で退職し、智深館の仲間と一緒に、2011年12月にオムニチャネルを専門としたLeonis& Co.を設立した。当初の目標どおり2年半という短期間で事業を軌道に乗せ、トランスコスモスに売却。そして今年の6月、新たなスタートとしてplayground株式会社を設立した。

「僕は会社を大きくしたい、時価総額を増やしたいとは思ってないんです。おもしろいものを世の中にたくさん出していきたい。やりたいことがたくさんあるので、ひとつの事業を3年くらいで形にして、どんどん新しいものに挑戦していきたいんです」と伊藤氏は想いを語る。
「いろいろなものの年表をつくるのが好き」という伊藤氏は、過去のできごとの中に、未来を生み出すヒントを見つけている。「年表を作っているとその業界の流れと次に何が起きるかが大体見えてきます。それを読み解きながら『こうずらしたらもっと面白いんじゃないか』って妄想するのが楽しいんです。」 これから先、伊藤氏が生み出していくであろう、新サービスに期待せずにはいられない。

取材: 四分一 武 / 文: ぱうだー

メールマガジン配信日: 2017年9月19日