スマホ、鉄道、ATM、コンビニなど、私たちが当たり前のように利用している様々なサービスは、生活に欠かせない社会インフラのひとつだ。そこではアプリケーション、ネットワーク、ハードウエアという仕組みが相互に連携しながら、全体としてひとつの大きなシステムとして動いている。今回訪問した株式会社BFTは、こうした生活を支える大規模な社会インフラ構築において、「システム基盤設計」に特化している企業だ。代表取締役の小林氏にお話をうかがった。

「サービスとは何か?」を考え抜いた大学時代

「小さい頃は、ごく普通の子でした」と語る小林氏は、1968年に富山県で産まれた。18歳のときに大学進学で東京へ。専攻は哲学科だった。仕送りだけでやっていくのは大変だったので、入学直後から学友の紹介でアルバイトを始めた。銀座中央通りに面した高級中華料理店だった。料理の値段は富山の倍。味も見た目もさほど違いがないように見えるのに、これほど値段が違うことにカルチャーショックを受けたという。その理由を考えたとき、気づいた答えは「サービスの付加価値」だった。

高級店だけあって、著名人も多く訪れた。バブル景気と重なり、チップをくれる客もいた。大学を卒業するまでここで働きながら、小林氏は「サービスとは何か?」を模索し続けた。「アルバイトの傍ら、よいサービスを探して食べ歩きしていました。おいしいものが食べたいんじゃなくて、サービスをみたかったんです。変わってますよね(笑) 職場は中華でしたが、ホテルやフレンチなど、いろんなところに行きました。素晴らしいサービスをするすごい人がたくさんいましたよ」

株式会社BFT 代表取締役社長 小林 道寛さん入社1年目にも関わらず、先輩にそっぽを向かれる

大学卒業が近づき、小林氏も就職活動の時期が訪れた。途中、大手証券会社に絞ったものの、最終的にフジテレビ系列のシステム開発会社に入社を決めた。「証券会社の内定をもらおうと必死になる中で、働き方ついて真剣に考えたんです。自分が欲しいのは知名度?金?安定? 悩んでいたときにアルバイト先で出会った方の紹介で、一社目の会社を知りました。システム開発なら自分で作って自分で納品する。自分が作り出せるサービスが大きいのではと感じたんです」

新社会人の小林氏は、先輩に「お前、辛辣なことは笑って言え」と言われるほど、生意気な社員だったと当時を振り返る。「入ってすぐ辞めようかなと思いました。同期は暗いし、先輩は偉そうだし(笑) 会議でも言いたいことを言っていたので、生意気がたたって先輩から指導されなくなるほどでした。でもそうすると生意気が好きな人が寄ってくるんですね。フジテレビの部長もその1人でした」

部長から「お前はネガティブすぎる」などとアドバイスを受けながら、仕事について学ぶ日々だった。大学生のときから「よりよいサービス」を考え続けてきた小林氏は、やがて社内よりも客先で高い評価を受けるようになっていった。

自由を求めてSIerではなく、小規模の会社へ

気づくと入社13年が経ち、技術がおもしろくなってきた。大規模なプロジェクトに携わり、会社の事業を支えるシステム開発プロジェクトのやりがいを感じていた。ところがその一方、親会社の仕事を優先する制約を窮屈に感じ始めていた。転職については大手のSIerからの誘いもあったが、自由を求めて社員10名の会社に入社した。「むしろそんな会社の方が性に合うと思ったんです」

36歳で株式会社BFTに転職した小林氏は、仕事に夢中になった。会社を大きくしようというムードの中でよい仲間に恵まれ、1日何時間働いても苦しくないくらい仕事がおもしろかったという。それは今でも続いている。そしていまから2年前、小林氏が47歳のとき、社長に就任。それまで事業を見つめてやってきた小林氏が、社長としての役割を果たさなければならなくなった。「私は創業者ではないので、サラリーマン社長で行こうと思いました。組織を1枚岩にできたら、すごい力を発揮します。1人の天才を育てるより、優れた指導者を増やすことで会社の力を上げる。私は会社を次へ引き継いでいける進め方をしようと思ったんです」

株式会社BFT 代表取締役社長 小林 道寛さんインフラエンジニアに求められる仕事はこれからも増えていく

「事業スタート時はいろんなことに手を出していました。インフラだけでなく、開発も闇雲にやっていました。開発プロジェクトがあまりに失敗するので、その時のリーダ層で話し合ったのが2006年頃。自分たちを高く評価してもらうことができ、お客様にも喜んでいただける仕事に集中しようということになり、インフラに舵取りをしました」

ハードウェアが安くなり、パブリッククラウドの活用が進む中で、インフラエンジニアに求められる仕事は益々増えている。エンジニア不足が叫ばれる中で、株式会社BFTでは今年からIT業界未経験者の社員を対象とした法人向け技術研修プログラム「BFT道場」を開始した。知識を教えるのではなく、調べる・考える力を身につける場として、独自のカリキュラムを実施している。

プライベートに目を向けると、最近小林氏がおもしろいと思ったのはマンガだ。次男が読んでいるマンガを手に取り、夢中になったという。 「『宇宙兄弟』はエンジニア心をくすぐる作品ですよね。最近読んだのは『ゴールデンカムイ』『進撃の巨人』。昔はマンガを読んでいなかったのに、大人になっておもしろくなりました」。マンガのほかに楽しんでいるのは、妻とのディナーだ。お互いワインが好きなので、毎月1~2本、いろいろなワインを飲み比べているという。仕事もプライベートも自然体の小林氏は、地に足をつけてIT業界の将来を見据えている。

取材: 四分一 武 / 文: ぱうだー

メールマガジン配信日: 2017年4月26日