今回は、「XZ(クローゼット)」という「ソーシャル・クローゼットアプリ」のサービスを展開する、株式会社STANDING OVATIONの代表取締役CEO 荻田芳宏さんにお話を伺いました。

中学高校時代

「今考えれば、平凡な学生だったなと思います。わりと勉強は得意な方だったので、中高一貫の進学校に行きました。学校では硬式テニス部に所属していたので すが、校庭が狭く、都会のコンクリートジャングルみたいなところで、活動の内容は限られていていました。当時は軟式テニス部の方が強くて、コート使用も軟 式優先。硬式テニス部は朝練しかできない状態でした。そのため放課後は筋トレ部みたいになっていて、「永久階段」って呼んでましたが、階段の上り下りをひ たすら何時間もやったりしてました。トレーニングの知識もない中でかなり無茶な筋トレをしていましたね(笑)。ただ、ベースとなる精神力というのはこの時 に培われたかなと思います。そんな学生生活を過ごしていたので、将来何をやりたいかなどのイメージはなくて、どちらかというと目先の大学受験で精一杯みた いな感じでした。」

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大学時代

その後、荻田さんは早稲田大学へと進学し、テニススクールのインストラクターのアルバイトをはじめる。その経験が将来について考えるきっかけの一つにもなったという。
「大学に入ってからは、アルバイトでほぼ毎日のようにラケットを握っていました。レッスンの空き時間にコーチ同士で練習したり、単にアルバイトというだけ でなくて、とても楽しかったですね。特に、自分でレッスン持つようになると、90分という時間の中でどういうレッスンを創るかということをいろいろと考え ました。限られた時間や制約条件の中で、ベストなアウトプットをするにはどうすればいいか、まさにそういうことなので、ビジネスのプロデュースにすごく近 かったと思います。僕は単純作業は苦手ですぐ飽きちゃうんですが、自分で工夫して創作していくのには非常にやりがいを感じました。この経験から、そういう 仕事の方が向いているし、自分の力も発揮できるんじゃないかと思うようになりました。もう一つテニススクールのアルバイトをしていて良かったなあと思う点 は、社会人の方と接する機会が多かったことですね。今のようにインターンシップがほとんどない時代だったので、普通の大学生活だけだと社会人と知り合うこ ともなかったのではと思います。当時テニスのレッスンにくるのはほとんどが社会人で、その方々からいろいろな話を聞いたりすることで、会社や仕事に対する イメージもできていったように思います。」

就職活動

「就職活動はかなり頑張りました。一部のずば抜けて優秀な層を除けば、学生個人の能力差はほとんどないと思ってましたので、いかに早く準備して活動するか が勝負だと思いました。特に、相手(会社)が何を求めているのかということを必死に考えました。本を読んだり、セミナーに行ったり、OB訪問をしたりと、 やれることは何でもやりました。OB訪問も2ヶ月の間に50人以上はお会いしました。特に博報堂に関しては、早稲田大学のOBの方々にお会いして、模擬面 接をしていただいてアドバイスをもらったりしました。

博報堂時代

そして、1999年に博報堂に入社。
「博報堂は約8年勤めました。最初は希望した事業プロデュース局というところに配属されました。モーターショーの展示会や、愛知万博のパビリオンなどのイ ベントの仕事。クライアントの商品と消費者とのリアルな接点を持たせる場所を創るのがイベントなんですが、中途入社者で構成された部署で、ここ数年で新卒 の配属はただ一人。20代は僕くらいでしたね。その中で、プロデュースしていけることにすごく醍醐味を感じていました。新人時代は、ライブ会場の設営をし たり、イベントでの交通整理のために駅前で通行人のカウントをしたり、そんな現場仕事ばかりでしたが、4年間この部署にいたおかげで、企画からプレゼン、 それから実際の制作・運営までを一通りやらせてもらえたので、学んだことはたくさんありました。インターネット博覧会なども担当したりして、リアルとバー チャルの融合的な部分も早いうちから経験することができました。」

4年おきに行われる配置転換を機に今度はキャスティング局を希望して異動。ここでの経験が次のステップへのきっかけともなる。
「元々イベントとか音楽とか映画とか、エンタテインメントのコンテンツが好きだったんです。せっかく博報堂にいるのだから、いろいろと人的ネットワークを 構築できたり、次の新しいトレンドの波を捕まえられるチャンスがあるところの方がいいなと思い、キャスティング局を自分から希望しました。当時、キャス ティング局には音楽業界で有名な方がいたので、その方の下に行きたいなとも思っていました。レコード会社、音楽事務所、タレントや芸能事務所の関係者な ど、とにかく多くの人との接点ができるので、エンタメの仕事をしていく上で、非常に強みになると思いまして。実際は音楽と広告の接点を創り、CMの楽曲タ イアップをつなげたり、コンサートツアーの協賛を募ったりもしていました。キャスティング局での仕事を通じて得たものは人脈ネットワークもありますが、ど の部署よりも調整力が鍛えられたと思います。他方面から挟まれている状態で、もうストレスで吐きそうになるくらいでした。僕が代理店にいて本当に良かった なと思うのは、常に生活者(ユーザー)の視点で課題を見つけていくとか、そこにあるユーザーの本音は何なのかということを、営業だけじゃなくクリエイティ ブもプロデューサーも全員が共通の視点を持っていて、自然に身につけることができたことだと思っています。そこを自分事として応用したいっていう気持ちが 湧いてきて、それを活かして事業会社にいきたいなと思い始めるようになりました。そして、年齢も30歳になっていたので、そろそろチャレンジしたいなとい う気持ちが強くなっていきましたね。」

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ベンチャー企業への転職

「2006年前後はITが盛り上がっていたので、自分の周りにも学生起業家がいたり、ベンチャーの世界に飛び込んで上場したりという仲間が多かった んですよ。だから、他人事じゃない感覚で悔しいなって思ったんです。それなら、自分がそっち側に行くしかないなとアドベンチャーに挑戦しました。当時モバ イルインターネットが伸びていたので、どうせなら成長産業の領域に行きたいと思って。特にネット上での企業と消費者間の取引を創ることは、ユーザーの顕在 化していない課題を見つけることですし、ニーズを見つけてその視点でユーザーの期待を上回る価値を提供することですから、それは広告ビジネスと変わらない なと感じました。今までの経験が活かせると思い、モバイルインターネットの中でエンタメコンテンツを扱っているところに行こうと思いました。」

そして、株式会社フューチャースコープに転職。
「当時、『魔法のiらんど』の役員陣が立ち上げたフューチャースコープという会社のスタートアップに参画しました。その時はデジタルのことをまだよく分 かっていなかったので、日々学びながらでしたが、サービスのPRやプロモーションは僕が中心になってやっていきました。広告、PR、プロモーションをより 強化すべきだと思いましたので、ブランド戦略部を作りました。そこで、事業部長をやっているうちに、新規事業にも関わっていくようになりました。年2回開 催していたビジネスプランコンテストで自分が提案した女性向けの実写デコメサービスを実現もしました。そのうちにスマホ時代が到来して、役員になり、新規 事業領域を中心に管掌いくというようになりました。ところが、グループ経営だったため、最終的な判断は親会社がするので、ベンチャーのあるべきスピード感 を持って決断するっていうのが難しいこともありました。新規事業企画はいっぱいあるけど、新しいことをやる前にまずは目の前の計画をクリアしてからという 話にどうしてもなりがちで、そういうジレンマがありました。そのうちにグループ全体でキャラクター輩出企業を目指し、自分たちで新しいキャラクターを生み 出していこうという方針・戦略に転換をしたんです。そうなると、僕らデジタルセクションは、その中で生み出そうとしているキャラクターを使ったゲームやコ ンテンツサービスを出して、ヒットさせて、キャラクターの認知を広げる役割にフォーカスされていって、事業展開の自由度がちょっと狭まってきちゃったんで すよね。」

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STANDING OVATION起業へ

「やっぱりネットベンチャーで挑戦するからには、ユーザーの潜在的なニーズをとらえて、生活に寄り添った新しい文化やスタンダードになる影響力を発 するサービスを創りたいという想いが強かったです。ゲームやコンテンツサービスは一発当たるとビジネス的にはうまみがありますが、賞味期限もあります。そ れよりはみんなに長く愛されて定番化するようなサービスがやりたいと思い、それなら、自分でやるべきかなと思いはじめました。ちょうどスタートアップの波 が来ていたので、数年前と違ってすごくチャレンジしやすい環境とも思いました。応援してくれる方たちも大勢いるし、マーケットも右肩上がりで。ここは、自 分で挑戦すべき時かなと。事業会社の中である程度ハンドリングできる立場とはいえ、オーナーじゃないと最終的にはジレンマは拭い去れない、だったら自分で やろうと決意したのが独立した経緯ですね。」

現在STANDING OVATIONがサービスとして提供しているXZ(クローゼット)は、自分の洋服やファッションアイテムを登録しておくと、おしゃれな他のユーザーが新し い着回しコーディネートを提案してくれたり、自分のクローゼットの管理をすることができるソーシャルアプリ。クローゼットに眠るファッションアイテムに注 目し、眠った洋服を再活用、再配置することで、ユーザー間のマッチングを促進させるという、新しい発想から注目を集めている。
「ちょうど去年の春、夏くらいから、プラットフォームサービスをやりたいなと思っていました。ビジネス的にも安定収益が積み重ねられると。その中でも、 マーケットの伸びを調べていくと、やっぱりスマホのEC市場だろうと思ったんですよね。その中で、何をやるべきか、何が出来るかを、いろいろ考えてみまし た。そんな時にユーザー側の在庫、要はクローゼットの中身に目を向けると、まさに宝の山。女性一人あたり34万5千円の休眠ファッションがある。首都圏だ けでも女性の休眠ファッション資産は1兆1千億円、全国では約5兆円にもなるんです。しかも、その70~80%は使われてないことが分かりました。つま り、洋服は持っていても、その活用方法が分からない女性たちが大勢いるんだなということに気づきました。さらに調べていくと女性たちも「いつか着るかもし れない」と思ってクローゼットに保管しているので、つまりまだ十分価値がある商品・アイテムがたまたま稼働せずに眠っているんだと確信しました。その眠っ ている優良在庫というところに着眼点をおいて、うまく刺激して出口を用意できれば、ビジネスが成り立つと思ったんです。」

今後の展望

「XZ(クローゼット)」が会社のメイン・プロダクトなんですけど、僕らの会社は、『テクノロジーで、新しい感性を。』という会社のテーマを掲げていま す。ソーシャルクローゼットは、テクノロジーの力で、一人では限界あるところを、みんなの知恵を集合知にして、新しい感性でアイディアの幅を広げようアプローチです。ファッションというのは一つの在り方で、後々はライフスタイル全般に広げていきたいと思っています。「オシャレを楽しむすべての人を応援する」というスタンス・ポリシーで、アパレルに限らず、ライフスタイル全般の中で、女性たちを応援していくようなサービスとか事業体にしていきたいと考えて います。」

さまざまな切り口から新しいビジネスを構築する荻田さん。今後のSTANDING OVATIONの動向に注目したい。

取材:四分一 武 / 文:Lily編集部

メールマガジン配信日: (前編)2014年12月24日 (後編)2015年1月7日