「好きになっちゃいました…モバプロが!」人気女優、北乃きいが出演する印象的なTVCMである。「モバプロ」とは、いま大人気のモバイル端末で楽しめる野球ゲームだ。プロ野球全12球団の現役選手に加え、OB選手等も全て実写実名で登場。好きな選手を選択し、オリジナルのチームを作成できるなど、かなり本格的なチームマネジメントが楽しめる。「うちのスポーツゲームは、単にチームの総合力で戦わせるものじゃない。一球一球、投げて打って、投げて打って、と、裏で本当に選手たちが試合しているんです。だから簡単なのに、すごくスポーツに忠実なんです。」CMでお馴染みの「モバプロ」をはじめとし、「モバサカ」「モバダビ」「メジャプロ」など、野球やサッカー、競馬などのスポーツゲームのほか、SNS機能やエンタメニュース、スポーツ予想コンテンツなど、様々なメディアサービスも充実。会員数が急拡大している。今回は、急成長を遂げる株式会社モブキャストの代表取締役社長として活躍する藪考樹さんにお話を伺った。

「億万長者」を目標に

「自分の性格は、目標と目的が決まっていないと何もしないんです。」
高校卒業後、旅行関係の専門学校に二年間通うものの、学生時代には人生の目標を見つけ出すことはできなかった。人生の転機となる決断をしたのは、20歳のとき。就職をする際に、二つの大きな目標を定めたのである。
一つは、「70歳でもうやり残したことは何も無い、といって死ぬ」こと。
もう一つは、なんと「35歳で億万長者になる」ことである。
「分かりやすいように、70歳のちょうど半分、つまり35歳のときに『年収一億円の給料を稼ぐ人になる』と決めたんです。25歳のときに年収一千万円を稼ぐようになって、毎年一千万円ずつ上げていけば10年後には一億円稼げるじゃないかと。」若さゆえの勢いで決めた「億万長者」という目標、どのようにして実現させたのだろうか。

営業マンとしてスタート、予想もしない売り上げを叩き出す

「25歳で年収一千万円を稼ぎ、35歳で年収一億円稼ぐ」という目標は決して容易く達成できるものではない。藪さんは、得意の営業の仕事を通じてその目標に近づくことを決意した。テレアポで旅行のパッケージを売る仕事や、鞄の中にOA機器のカタログを入れて指定されたエリアの中で売る仕事もした。様々な仕事を経験する中で、当時自分自身も販売していた携帯電話が、これから売れるだろうと確信。携帯電話の事業をすることが新たな目標となった。その目標を叶えるために、営業マンとして、あえてオール歩合制でやらせてほしいと頼み込み、当時たった4、5人しかいなかった携帯電話販売会社であるベルパークに25歳で就職。予想もしなかったほどの売り上げをあげることになる。最初の月からなんと100万円を稼ぎだし、半年ほどで、目標としていた25歳で年収1000万円を達成。しばらくすると藪さんの目標は、年収を上げることではなく、会社を上場することに変わった。2000年5月、藪さんが29歳の時にベルパークが上場する際にも、大きく貢献。こうして、35歳で「給料として年収一億円を稼ぐ」という目標は、35歳で「ベルパークという会社の価値をどこまで上げられるか」という具体的な目標になった。現状に満足することなく、次々に新たな目標を設定し、着実に達成していったのである。

株式会社モブキャスト 代表取締役社長 藪 考樹さん念願のエンターテインメントビジネス
― ソーシャルなこととリアルなことの繋がり ―

「70歳で死ぬ時にやり残したことがないようにするために、エンターテインメントのビジネスがやりたいって決めてました。」33歳で億万長者という目標を達成した藪さんが、立ち上げたのが今のモブキャストだ。
「良いものを見抜くことには自信があったんです。自分が遊んだり試したりしてよかったもの、映画でも洋服でもなんでも、人に勧めるのも好きですし。自分の会社で作ったエンターテインメントで社会に感動を広めたい、って漠然とした思いから始まりました。」

2005年に設立してから2009年にウェブサッカーがヒットするまでの間、藪さんは、「とにかくコンテンツをつくりやすい環境を整備すること」「完成したもので遊び、売れるかどうかを見守ること」に徹した。「経営者がすることは、ヒットタイトルが出るまでは何もないと思いました。売れるものをつくることは宝くじを当てるようなものですから。」そのため、良いゲームクリエイターなどの人材を集めるなど、「売れるようにする確率をあげることだけ」に集中。そうしてヒットタイトルがでるのを待った。

2010年2月に、ウェブサッカーを出したところ、ワールドカップの時期だったこともあり、広告宣伝費ゼロで会員が70万人まで増えた。「普通のビデオゲーム(いわゆる家で一人でやるゲーム)と、ソーシャルゲームの違いは、コンピューターを相手にするか、リアルな人を相手にするかの違いです。リアルな人と対戦することは、世の中の話題と結びつきやすいんですよね。例えば、サッカーの試合で日本が勝ったら、熱くなる。その時に友人から一緒にサッカーゲームやろう、と誘われたらやる人が多いんじゃないでしょうか。それで、ソーシャルなことと、リアルなことの相性が良いという仮説を立ててみました。その仮説を確かめるべく、リアルな野球選手のカードを使ったゲームを出したら、もっとヒットしたんです。」こうして「ソーシャルなことと、リアルなことの繋がり」を確信。ゲームの分野ではソーシャルなことと最も相性が良い「スポーツ」に特化したソーシャルプラットフォームをつくることを決意。2011年にスポーツソーシャルゲームに特化することとなった。

インターネット上で世界大会、世界に感動を

モブキャストのこれからについては、「スポーツといえば、mobcast」となることを目指すという。暇つぶしのものから本格的なものまでスポーツゲームはもちろんのこと、スポーツについて語っている人のコメントを見るなど、メディア、SNS機能も備え、スポーツに関する全てをmobcastのみで完結できるようにする。また、海外展開をして、インターネット上でワールドカップのような世界大会を開催するのが今後の目標であるという。「14、5年後までには、FIFAの加盟国すべての国に展開し、インターネット上でもう一つの世界大会をしたいです。ワールドカップ側とインターネット側の連携が可能となって、それで70億人を感動させるサービスができたら、もうやり残すことはないです。」モブキャストを通じて、インターネットで世界中の人々が繋がり、スポーツの感動を分かち合う未来が来るのは近いかもしれない。

取材:四分一 武/文:若尾 祐里花

メールマガジン配信日: 2013年3月21日